micro soccer diary

サッカー観て思うことすこし。

森保JAPAN戦術レポートの感想を書くよ

 

Amazonkindleセールしていたので買ってみた1冊。

著者 らいかーると。

スポナビブログなどで読み物としての戦術分析を長年書き連ねてきたことで親しまれている。育成年代の指導者でもあるため、あくまでも現実の世界を生きているタイプの戦術系サッカーライター。

 

今作『森保JAPAN戦術レポート』のサッカー本としての位置づけは、時の代表をテクニカルな面から検証し総括するもの、ということになるだろうか。本当はJFAの仕事のはずだが、この国ではいつからか市井の者によって活動報告がなされるのが恒例になっている。

 

 

良いところについて話す前に

 

まず『戦術レポート』を読む前に、森保JAPANを追ってきた誰しもが感じている疑問があると思います。

「本番の日本代表が真の姿だというなら、それ以前はどうしてあんなだったのか」

「どこまでが監督の計算で、どこからが天然なのか」

「続投希望の先にどんなビジョンが見えているのか」

ことばにしたらこんな感じじゃないでしょうか。

 

結論から言うと、当書を読んだとしてもこれらの謎は謎のままに止まります。

もう少し正確な表現をするなら、当書で考え出されている回答をすべて受け入れてもなお実際の森保監督の行動とソレとが噛み合わないためやっぱり謎が残る、という感じです。

分析班のらいかーると氏と現場担当の飯尾篤史氏により意見がすり合わされ、おそらく状況証拠的にこうなのではないか?というアテがつきはするものの、それが真実であるかは不明な点が多い。

たぶん本当の意味での総括ができるようになるのは、森保監督が退任し、当事者たちから真相が語られるようになってからなのだと思います。

 

 

良いところ

 

この本は森保JAPANの最終予選からW杯本番までのマッチレポートになっています。

けれども従来的な意味でのゲーム分析というかたちは取っていません。例えば長友は背が低いから空中戦において弱点であるとか、吉田は足が遅いから広いスペースを任せられないとか、そういう事を分析しているわけではないのです。

この著者が浮き彫りにしようとしているのは「長友はオープンスペースに走り込みクロスを上げるプレーが持ち味だがそれが見られなくなっているのは何故か?」とか「吉田がより広いスペースをカバーしなければいけなくなるように対戦相手はどんな策を講じてきたか?」というようなことです。

またもっとマクロな視点から「このチームが秩序だって戦えているときはピッチにどのような状況がおきているのか?」ということを見ています。

 

日本代表は何をしようとしていたのか?

対戦相手にどんな問題を引き起こし、どんな問題を抱えながら試合を進めていたのか?

どれだけチームに問題を解決する能力があるのか?

そして何が本当に問題なのか?

 

これらを探る行為がホンモノのゲーム分析だと思います。

【あくまでホンモノっぽければOK!】

【解決策の提示なんて実現可能性の低いものを言ったってバレないよね どうせみんなサッカーなんて興味ないんだから 】

そんな本音が透けて見える舐め腐ったサッカー評論家たちと違って著者はガチです。

ネットが拡散し真実がみつけにくくなった時代に、愚直なまでに真摯にサッカーと向き合おうとする姿勢は、こちらの背筋を伸ばしてくれるものになっていると思います。

 

 

ひとつ具体的な紹介をすると、森保JAPANの自陣からの前進/ビルドアップに関する分析などは秀逸です。

らいかーると氏は選手が移動する場合のトリガー(基準)が見えづらいことは利点もあるとしたうえで、ビルドアップの初期配置図があいまいであるために個人の責任が増している点を指摘します。

例として、ボール回収時にクリアするかつなぐかの判断基準を失っていること。

味方がビルドアップのスタートポジションに立てている→つなぐ選択

味方がビルドアップのスタートポジションに立てていない→クリアの選択、またはキーパーなどに戻し味方がポジションを取り直す時間をつくる選択

上記のような状況判断の絵をチームとして共有していないことで個人が判断コストを多く支払うはめになっており、森保JAPANはどんなフォーメーションを採用しどの選手を起用した時もパスミスやクリアミスからのピンチを招きやすくなっている、と示唆します。

それはチームの癖みたいなものになってしまい、本番のコスタリカ戦で手痛い代償を支払うことにつながっていく。

 

らいかーると氏は『戦術レポート』のなかでひとつひとつの試合を分析するうちに森保JAPANのナラティブみたいなものを拾い上げていきます。

もちろん結末はわかっているわけですが、読み進めるにつれこれらの小さなピースが意味を成していくさまには、サスペンスや冒険小説に似たスリルが生じている。

読み物としての『サッカー分析の面白さ』も詰まっている一冊であり、単純に活字を好んでいてサッカー分析に興味がある人ならここから入門するのもいいんじゃないかな?と思う理由です。

 

 

悪いところ

 

疲れてきたので箇条書きで

 

・森保JAPANの縦軸での評価がなされている一方、カタールワールドカップはどんなチームが勝ち組に回る大会だったのか?を総括していないため、日本の相対的な評価がわからないところ。

・「答えはピッチに落ちている」が、カナダ戦までの試合内容からカタールW杯の代表を想像するのはやはり難しいということ。

・客観的な書き方を心掛けたのはわかるとしても、主原則レベルの練習を繰り返すのか、それとも下位原則レベルの練習に発展すべきなのか(=チームメンバーを固定化するべきか)、書き手の立場を明確にしないと代表チームへの評価はあいまいなものにならざるをえない。

 

 

締めくくりと未来について

 

読み始める前は、「なんで森保ジャパンなんだよ。ドイツみたいな国がまじめに分析してもわからないんだから、だれが分析しようがわからないことがわかるだけだろ。」そう思ってました。

でも自分が舐めていただけで、ちゃんと然るべき人がきちんと分析して向き合えばチームのアウトラインを明確にすることはできるし、良くも悪くも一国の日常を変えるのは難しいんだろうなって読後感を持ちました。

 

かつてのドイツと今のドイツが違うように、オランダやイタリアがスタイルを変更したように、日本もなんとなくだけど自分たちが想像できるような代表に近づいていったらいいよね、なんて願います。

だってスペインに勝つならああいうストーリー設定で勝つしかなくて、それは向こうに選ばされているものでもあるから。

選ばされたスタイルのままでクロアチア戦に臨んだのはちょっと悲しかったから。

ベルギー相手に自分を信じて立ち向かうカナダは格好よかったから。

そんな日本代表に対する思いとかロマンが再点灯したW杯でしたね、個人的には。

森保ジャパンと彼らを追いつづけた人たちに本当にお疲れ様でしたと言いたいです。

 

 

 

(あと欧米人の外にいる僕たちは割とフラットな目線からサッカーを観れるというアドバンテージがあって、それを活かさない手はないというか別にオリジナルな日本のスタイルを志向しなくても、フラットなミックスのスタイルで十分武器になるし落としどころはその辺にあるんじゃないでしょうか)